【コラム】北海道を直撃した一連の甚大な台風被害報告について

これまでも、折に触れ本連盟の農民代表が中央省庁に、そして盟友に向けて発言してきたが、北海道の農業・農村地域は、家族経営を主体に、安全・安心な食料の安定供給と国土・環境の保全など多面的機能の発揮に対し、大きな役割を果たすとともに、本道経済・社会を支える重要な基幹産業として今日まで様々な変遷や苦難を乗り越え関連する地場産業とともに発展してきた。

一方、観測統計を開始した1889年(明治22年)以降、北海道には台風7号(8/16~17)、11号(820~/21)、9号(8/22~23)、10号(8/29~31)など、一連の台風が猛烈な勢力を保ったまま連続で直撃したことは過去に例がない。
すでに、メディアや大手各紙などで報道の通り、今般の台風災害の集中豪雨及び強風などにより、89ヵ所もの河川氾濫、農地の土砂流入、住宅損壊・浸水被害を始め、農作物や農地表土の流失並びに倒伏被害、農業用施設の損壊、停電の影響による348㌧の生乳廃棄など、それらの被害は当地・オホーツク管内のみならず、北海道全域に甚大な影響と爪痕を深く残した。

北海道庁の調査によると、今回の台風災害による被災市町村数は140市町村、死者4名、行方不明者2名、避難者延べ人数で1万1,176人となった他、道内19市町村で延べ1万8,668世帯が断水となり、地域住民の生活に大きな影響が発生した。(9月30日現在)また、一連の台風被害によって、ライフラインや公共交通網が寸断されたことにより、今秋を見込んでいた観光・運輸業界などおいてもかつてない経済的損失を及ぼしている。

現在では、日増しにJR各路線における部分的な復旧が増えてきたものの、台風による橋梁崩落の仮設護岸対策が間に合わず、ダイヤの運休が長引いたことによる代替交通の確保にも都市間高速バスの増便が追い付かず、対応に苦慮している。
北海道観光局の調べによると、台風被害による宿泊キャンセルなどの影響が報告されている施設は120件以上となり、とりわけ前述のJRを利用した帯広方面の宿泊プランなどに影響が及んだとされている。(9月5日現在)
また、当地の収穫時期を迎えた玉ねぎを運搬するJR貨物の臨時貨物列車(通称:玉ねぎ列車)もトラックの代替輸送における傭車及び人員確保に限界が生じている。

今般の甚大な台風被害は、これまで北海道内の災害規模で過去最悪と呼称されていた1981(昭和56年)に発生した通称【56水害】の被災規模も大きく上回り、生活道路及び河川なども含めた被害総額が2,740億円にも上る未曽有の大災害の状況となった。

これを受け、国は北海道及び東北地方の広範囲を襲った一連の台風・大雨被害を【激甚災害】に指定するとともに、被災地を訪れた安倍首相は、農業関係者らに、『国としても全力で、なりわいの復旧・復興に力を入れて、(被災者が)元の安心して生活できる日常を取り戻すために全力を傾けていきたい』と表明し、台風被害によって壊滅的な状況となった市街地及びインフラ整備における早期復旧や今後の災害防止対策などを国策によって対応することを約束した。

他方、今般の台風の影響等によって、高齢者や障害者が入居する道内18の福祉施設においても大きな浸水被害が発生したが、そのうち、7割にあたる13施設が国の水防法に基づく「浸水想定区域外」であったことが判明した。また、想定区域内であっても、洪水などに備えた避難計画づくりは遅れているため、今後は、道内各地で、各所で台風の大雨・浸水被害に見舞われる恐れがあることを「現実感」として捉えながら、想定区域指定の有無に関わらず、万全な防災対策を講じる必要があることを被災地内外から強く求められている。

一般的に全国的な台風被害においては、行方不明者の救助や交通情報を最優先に、主要幹線道路や市街地の冠水した状況などが繰り返し報道される。しかし、今秋の収穫を目前に控えていた農地・農作物、農業用関連施設に対しても、例外なく惨憺たる被害状況が報告されている。

前述の台風被害の内数となる北海道内における農林水産業の被害総額は675億円となり、とりわけ農業分野では543億円・被害面積で3万8,927haもの甚大な被害報告となった。
4つの連続台風の直撃に見舞われた北海道において、当地・オホーツク地域では、台風7・11・9号3つの豪雨被害などにより、札幌ドーム約760個分に相当する4,381haもの農地が大小様々な被害を受けた。とりわけ、壊滅的な被害を受けた北見市では常呂川水系の「無加川」の氾濫により、オホーツク総体被害面積の約半分の2,000haの農地被害に見舞われ、これまで歴年の主産地形成により、全国的なネームバリューを誇っていた『北見玉ねぎ』の肥沃な農地が最大で「1m」もえぐり取られた農地も内在する。来春の各農作物の作付に向けた農地復旧には、「客土」と呼ばれる土を入れることが不可欠だが、来月の11月中旬頃より当地では土壌凍結が始まり、その後『根雪(ねゆき)(降り積もった雪が解けずにそのまま冬景色となる始まりの意)』となってしまうことから、現在も農地復旧に資する緊急対策の構築を国や道に要請している。しかしながら、被災から2ヵ月以上経過した今でも復旧スケジュールのメドが立っていない農地が散見されている。

原則、災害復旧工事は堤防優先であることから、農地はもとより、農地の復旧などに必要な『復旧用特殊車両(ユンボ・タイヤショベルなど)』が通行する農道整備対策には手つかずの状態が続いているため、来年の作付けが絶望的な農地が増えてくることが危惧されている。
また、相次いだ台風の豪雨災害によって、例年にない『土壌含水量』で農地が乾くことができず、畑地のみならず大きな影響被害が報告されにくいはずの「牧草地」にも湿害となる『根腐り』が発生し、牧草収穫の遅延と品質劣化の両面で酪農家の経費増として重くのしかかっている。
安全・安心、そして「安定供給」に約束される北海道の牛乳生産において、主力となる牧草や飼料用トウモロコシの収穫ができず、粗飼料を確保できない場合には、やむを得ず輸入乾・牧草の購入に頼ることとなる。結果として、全国の半分以上の牛乳を生産する北海道の生乳需給にも大きなダメージが残り、次年度以降、全国的な影響を及ぼしかねない状況が憂慮されている。

観測史上初と呼称される様な異常気象の猛威が全世界的に乱発する昨今、改めて、わが国の基礎食料生産のあり方と食料自給の意義を広範な国民各層と理解醸成に努めていかなくてはならない。
『日本の食料生産基地』と位置付けられる北海道では、これまで大きな台風被害に直面しにくい地域・気候条件などに加え、地域農業者の不断の努力こそが国内外に冠たる最高峰の農畜産物収量・品質の両面で大きな評価を受けてきた。
さらに、先人たちが当時、『不毛地帯』とまで揶揄された北海道の広大な原野を粉骨砕身の思いでゼロベースから切り拓いてくれたおかげで、今日の肥沃な農地に守り育て、意欲ある若手農業者への連綿の繋がりとなっている。

それが、冒頭の農民代表の発言に起因する農地の資産価値であり、北海道農業が提供する安心・安全、そして「安定供給」に資する農地の『地力(表土)』である。
しかし、今般の甚大な台風被害によって、先祖伝来の『地力(表土)』が1mも削り取られた地域もあり、当地のプロ農家の言葉にして【半世紀以上もかけ大切に作ってきた農地】が、一瞬にして表土流出に加え、土砂・風倒木流入などによって目を覆うような、変わり果てた「姿」となってしまった。

今般の甚大な台風被害において、本連盟では上部組織・北海道農民連盟とともにオホーツク地域はもとより、それぞれの被災地域で次年度以降も農業経営を決して諦めることなく、生産現場のプロ農家が意欲的に営農再開ができるように、地域間
レベルのきめ細かな不安払しょくに努めると同時に、国や道、各自治体に対して、1日も早い農地復旧と農業用関連施設などの復興対策が今、何より求められている。
今こそ、オホーツク農業を、そして地域コミュニティをこの先もしっかりと守り抜くために、各関係機関・団体の総力をあげ、あらゆる緊急対策の運動展開を検討することを本連盟では強く確認している。